鬼の角
奥羽の峰を借景にして、築山や錦鯉が泳ぐ池が配されていて、紅葉を中心とした中高木が自然のままに植えられている。京都の臨済宗大本山東福寺が、秋の紅葉の美しさに一点集中して、紅葉ばかりが植えられているのを真似たといわれている。
その証拠に東福寺の開祖である聖一国師(しょういちこくし)が宋から持ち帰ったと言われている通天モミジが、ここでも見ることができる。村の観光課の要請で、この庭は秋になると紅葉狩りの観光客に無料開放しているらしい。
また、北西に面した側には裏庭が広がっている。表庭が陽の面であれば、裏庭は陰の面といっていいだろう。
こちらは生活に即した実用庭となっていて、蔵があり、風呂焚き用の薪小屋があり、近くの田畑に続く生活排水の用水路がある。もちろん今では浄化槽と下水管がちゃんと配備されている。
この裏庭には畑があり、爺ちゃんと婆ちゃんが自給自足できる程度の野菜が収穫できる。また、りんご、無花果、枇杷などの果物が採れる木々も植えてある。
リビングの勝手口からこの裏庭に出ることができるのだが、各部屋からは、窓から景色のいい一部だけが見えるようになっている。
この裏庭の一番奥に、二階建ての大きな蔵が一棟建っている。これも江戸時代からの物で、なまこ壁仕立ての腰壁(こしかべ)の上は、京の深草(ふかくさ)大亀谷(おおかめだに)の白土で塗ったという純白の漆喰壁となっていて、江戸時代から変わらずその重厚さを際立たせている。
爺ちゃんは、中に入っている物すべてを確認したことがないと言っているから、もしかするとすごいお宝が眠っているかもしれない。
玄関は、明治に入って改装されたそうだ。江戸時代の最盛期には鷹狩りのお殿様が宿泊されたことがあるということで、内庭のついた賓客用の玄関が別にあったそうだが、それは既に取り払われてなく、現在は昔の釜屋と呼ばれる土間のある部分を玄関としている。
母屋の重厚な引き戸を開け玄関に入ると、とても豪邸の入り口とは思えない質素な雰囲気となっている。昔ながらの三和土(たたき)の土間が広がっている。
すぐ左には大きな竈(へっつい)がある。ここは、お祭りなどの特別な場合に今でも現役で一升のご飯を炊いたり、料理で使用したりしている。