「ふみ」さん

「弘樹さん。貸衣装もバッチリよ」

陽菜は持ち帰った紙袋をぽんと叩いてVサインを出した。午後二時過ぎになると、俺の両親と姉がやってきた。姉がひろみの顔を見て「かわいい」と言っている横で、両親は陽菜の顔を見て唖然としていた。

「これならうまくいくかもしれないな」

それまで不安でいっぱいだったが、この父の言葉に励まされた俺は、これから始まる対決に、自信をもってやればいいのだと自分を励ました。

「何がうまくいくの?」

ひろみの小さな手に自分の指を握らせて微笑んでいた姉が、二人の会話に疑問を投げかけた。橋口家でこの一連の話を知らないのは姉だけだった。俺はどう言い繕おうかと口ごもってしまった。だが、姉は何事もなかったかのようにすぐにひろみのほっぺをつんつんしだして事なきを得た。

祝宴が始まった。義父母は、一人娘に初孫ができたうれしさに、酒が進んでいる。対照的に俺の両親は、これから始まる展開にドキドキしながらも、話を合わせて料理と酒を味わっているのがわかる。姉はマイペースで料理に箸を伸ばしている。

「そういえば、橋口家では長男の健康を祈願するための……何でしたっけ。『儀式』みたいなものがあるとか。面白いものですな。このあたりではそんな習慣は聞いたこともありませんよ」

義父が赤い顔をして父に言う。

「いえ、そんな大したことではないんですが。暗くなる少し前に夫婦と赤子が別室にこもって、ご先祖様にこの子が丈夫に育ちますように、とお祈りするというものなんです。ちょっと変な声が聞こえてきても誰も入ってはいけない、……まあ『鶴の恩返し』みたいな感じですかな。何をやっていたかは、聞いてやらんでください。人に話したら願いが成就しないと言われていますから」