姉が見たとおりの正しい感想を述べ、義母がひろみを抱きながらうれしそうに眺めている。そして、それとは対照的に俺の両親はというと、時間が止まったかのように動きを止めて陽菜の姿に目を瞠っていた。
「そっくりだ……」
父は、思わず出た自分の言葉に「まずい」という顔をした。
「ああ、なるほど。これが開運の神様になったご先祖様の姿というわけですか」
「ええ、まあその……」
俺は、陽菜が開運の神様の姿になってお祈りするということを、義理の父母にあらかじめ伝えておいたのだ。時間がなくて、そのことを父には話していなかった。
「ああ、弘樹くんから大体のことは聞いていますから」
義父の言葉に父は冷や汗を拭いている。そうこうしているうちに、日没の時間が近づいてきた。俺たちは皆に挨拶し、ひろみを連れて別室に引き上げた。皆のいるリビングからいちばん遠い六畳の和室に俺たちは入った。
「弘樹さん。この期に及んで申しわけないのだけど、わたしやっぱりちょっと……不安だな」
俺の真剣な気持ちが伝わったのだろう。半信半疑だった陽菜も、もしかすると本当のことなのかと感じはじめたのだ。陽菜はひろみを抱いて座布団に腰を下ろした。そして少し離れた正面に俺は陣取った。
「大丈夫だよ。『ふみ』さんの姿が見えるのは、俺とこの子だけだから。さあ、君は俺がいいというまで顔を隠しておくんだ」
「わかった。台詞はちゃんと覚えているから、あとはあなたがきっかけのサインを出してくれるのを待つだけよ」
陽菜は気持ちが吹っ切れたようだった。貸衣装屋で一緒に借りてきた厚手のベールをかぶった。下から覗き込まない限り顔ははっきりとは見えない。外が次第に薄暗くなってきた。俺が部屋の蛍光灯を点け、窓のカーテンを閉めたそのとき、ひろみが泣きだした。陽菜は仕方がないのでドレスの胸元のボタンを外して乳を含ませた。
ひろみが力強く乳を吸っているとき、俺と陽菜の間に白い影が浮かんだ。陽菜は気がついていないようだ。その影は次第に輪郭が明確になった。それは白いドレスを着た俺の「おばちゃん」、すなわち『ふみ』さんの後ろ姿だった。
【前回の記事を読む】『ふみ』さんの呪いを断ち切るために、生まれたばかりの長男を危険に晒すかもしれない"奥の手"を使う他なかった...
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。