「ふみ」さん

「父さん。今の世の中、千グラムにも満たない未熟児だって完全看護の中でちゃんと成長するんだよ。混合ワクチンだってあるんだ。もう『ふみ』さんに頼る必要はないんじゃないの? このあたりできっちり縁を切ることを考えた方がいいよ。そんなことにビクビクしながら生きていかなきゃいけないなんて、俺には耐えられないよ」

「それは、父さんだって考えたさ。だが、いい方法が思いつかなかった。弘樹、おまえはどんな方法で彼女と縁を切るつもりなんだ? まさか悪魔祓いでもするつもりか?」

俺は、少し冷静になって『ふみ』さんの写真をじっと見ながらしばらく考えた。そして、思いついたことを父に話してみた。

「俺の子どもには、まだ名前をつけていないんだ」

「長男については、代々その子の祖父に当たる人が命名している。おまえの名前も弘太郎祖父さんがつけたものだ。今回はわたしが名付け親になる番だ」

「父さん、俺は、まずそこから正そうと思う」

「どういうことだ?」

「どうせ『弘』という文字を入れたものにするつもりなんだろう?」

「そうだ。代々そういうことになっている」

「父さんには申しわけないけど、俺はそんなことに囚われずに名前をつけたいんだ」