「わかった。やってみるわ。これでも高校、大学と演劇部だったから安心して。でも、うちの両親がなんていうか……」

「それは、俺からちゃんと話すよ」

俺は妻の両親に「明日の夜、橋口家の慣わしでご先祖様のお力を得て、この子を強く育てるための儀式を行いたい。ちょっと変わっているがお付き合い願いたい」という旨の願い事をした。二人は少し怪訝な顔をしていたが、孫のためであればということでなんとか了解してくれた。

これで準備が万端整った。その晩は、妻と何回か予行演習を行ったが、さすがに陽菜は演劇部だっただけあって台詞の飲み込みが早かった。本物を知らないのに本物らしく感じるのが不思議だった。

翌朝、ひろみをおばあちゃんに預け、妻は美容院に、俺はひろみの出生届を提出するために区役所に出かけた。俺が先に区役所から戻って、義理の父と「命名 橋口ひろみ」と半紙に書いて床の間の上の梁に貼り付けていたとき、陽菜が美容院から戻ってきた。

「あら、なんだか古風な髪型にしてきたのね」

「お母さん、これが今の流行なのよ。お母さんもやってみたら」

母親の言葉に陽菜もうまく取り繕っている。髪型はもちろんその顔は、さほどの濃いメークをしているわけではないのだが、まさしく写真にあった俺の曾曾祖父さんの妻である「ハル」さんと瓜二つだった。

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次回更新は11月14日(木)、22時の予定です。

 

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