「ふみ」さん
「それから、ふたつ目。こちらがもっと重要だ。橋口家直系長男のおまえには、おそらく今でも『ふみ』さんの姿が見えるだろう。だが、いるのがわかっても決して目を合わせてはいけないし、懐かしく思っても話しかけてはいけない。徹底的に無視をするんだ。できるか?」
「だって、俺の幼い頃にずっと俺を見守ってくれていた人じゃないか。顔くらい改めてしっかり見てみたいよ」
俺は正直な気持ちを伝えた。
「父さんだって幼い頃には『ふみ』さんに見守られて育った。だからその気持ちはよくわかる。だが、無視することにはちゃんとした訳があるんだ」
そう言って父はその理由を語りだした。それは世にも恐ろしい言い伝えだった。
「おまえの祖父さん、弘太郎さんは実は長男じゃなかったんだ」
「えっ、どういうこと? 今、弘太郎さんも『ふみ』さんに見守られて育ったって説明したじゃない」
「まあ、黙って聞きなさい。本当の長男は生まれてすぐに、麻疹、水疱瘡、お多福風邪など全部を同時に併発してすぐに亡くなった。それは、『ふみ』さんがそれまで弘大を守るために自分が吸収し、蓄えてきた災厄を一気にその子に与えてしまったからなんだ」
その原因は、俺の曾祖父さん、弘大の不注意にあった。