弘大は自分が経験したこの不幸な出来事を振り返り、子孫に同じ思いをさせまいと、口伝えに伝承すべき橋口家の法度を作ったのだった。それは、弘太郎、弘一へと引き継がれ、それが今まさに弘樹に伝えられているのだ。

「なんでそんなことするんだろう。別に成人したあとでも声をかけたっていいじゃないか」

俺は素朴な疑問を口にした。

「たぶん『ふみ』さんは、自分の愛情のすべてを一心に赤ん坊に向けたいのじゃないかな。かつてすべての愛情を注いだことがある相手だからこそ、顔を見たら愛しさが募るだろう。彼女は目の前の赤子に注ぐべき愛情が、分散するのを嫌がっているのだと父さんは思う」

父の分析には、なるほどと思った。

「でも、邪魔されたからその子の面倒は見ないというだけならまだしも、自分が溜め込んだ災厄を全部その子におっかぶせて、死んでもかまわないというのはあまりにも勝手すぎるよ。それじゃあ『災厄を祓ってくれるありがたい叔母様の霊』なんかじゃなくて、幼い男の子にとりつく『悪霊』じゃないか」

「弘樹、そういう言い方をするんじゃない。このルールをしっかり守ってきたからこそ、橋口家はその後、代々跡継ぎの男子がみな健康に育ってきたんだ。おまえだってその一人なんだぞ」

少し言いすぎたかと思ったが、俺は感情の昂ぶりを抑えることができなかった。

【前回の記事を読む】『ふみ』さんの霊が代々我が家系の長男を守り続けている...?! そして父から『ふみ』さんのルールが伝えられる...

次回更新は11月13日(水)、22時の予定です。

 

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