シャルルは自分にそう言い聞かせて、ふっとあることに思いを馳(は)せた。あの者、もしも従者として雇えばちょっと面白いことになるかもしれぬな。シャルルはカザルス殿のことを思った。

カザルス殿とはシャルルの領地アンブロワに隣接する大諸侯、グザヴィエ・アントワーヌ・カザルス・デュプレノワールのことである。

彼は王の同い年の従兄弟である。このマテウス河以東の土地に位置する領地の中では最も広大な土地を所有する大貴族で、周辺のシャルルなどの諸侯からはカザルスの殿と呼ばれ、一目も二目も置かれている存在であった。

彼は大変な好事家(こうずか)で、芸術への造詣が深く、知的で好奇心も旺盛、気風はまことに先進的であった。

風貌に至っては王の身内という肩書きを外したとしても、痩せた長身に整った顎髭(あごひげ)をたくわえ、趣味の良い衣服にいつもきちんと身を包み、いかにも洗練されたふうであった。

そのただでさえ風貌優れた領主は、その上この土地随一と言われる美丈夫をいつも傍らに置いていたのである。

バルタザール・デバロックというその男は、もとは奴隷の子であったが、幼い頃よりカザルスが拾い上げ、常に手元に置いて教育し、武道を仕込み、今ではカザルス殿の宝刀と仇名(あだな)されるような立派な騎士に仕立て上がっていた。

無駄な肉を削ぎ落とした、引き締まった浅黒い顔に漆黒の艶やかな髪、思慮深い眼差し。冷ややかにすら見える涼しげな目元が、何もかも見透かしているかのような鋭利な印象を与える若者である。

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次回更新は10月21日(月)、18時の予定です。

 

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