第二章 イヨロンド

「それは変わった習慣だな。だがな、むくつけき髭面(ひげづら)の強面(こわもて)ならば大笑いだが、そなたはなかなか似合っておるぞ、なあ?」

シャルルはまたしても城代に賛同を促し快活に笑った。これには当の若者も、またかとばかりに少々機嫌を損ねた表情をした。

「すまぬ、すまぬ。これはちょっとからかいすぎた。荒馬を一人で宥めるような御仁(ごじん)に失礼なことを申したな」

シャルルはなぜかこの若者との面会に心が浮き立ち、上機嫌だった。

「で、そんな名前を付けられておるのは何か幼少時に大病でも患ったか?」

「はい、仮死で生まれたと聞かされております」

「何! 仮死だと? それは珍しい。仮死で生まれて蘇生(そせい)したのか! なかなか強運の持ち主とみえる」

「さあ、それはいかがでしょうか?」若者は首を傾げた。

「いやいや、健やかに生まれても育たぬ子もおるが、仮死で生まれてそこまで成長するとは、よほどそなたに神の思し召しがあるのであろう」

シャルルは感心して自分の言葉に自ら頷いてみせた。

「それはそうと、そなた、あの荒馬を取り押さえて何やら耳元で囁いたそうだな。すると馬がおとなしくなってそなたを乗せたと聞いたが、何か呪文でも操るのか?」

「滅相(めっそう)もございません。あれはただ、可愛い奴、乗せてもらうぞ、と声をかけただけでございます。馬は本来、利口でおとなしい生き物でございます。礼を尽くしてやれば応えます」

「ほう、そんなものか。だがあれは、気性はあのように激しいが牝馬(ひんば)でな、一人前に面相の選り好みでもしよったのではないか、なあ?」と、またも城代に向かって笑った。

どうも今日はお館様は口が回る。日頃めったに言わないような冗談まで言われておるわ、と城代もついつい口元が緩んだ。