「あの馬は姿が整っておったので乗用に手なずけようと思っていたのだが、なかなか強情で言うことを聞かぬから困っていたのだ。名はエトルリアというが、どうだ、あれをそなたにやろう」

「いえ、褒美に下さるというのであれば、私は馬を拝領いたしますよりも、お館様にお召し抱え頂きとうございます」

若者は即座に言いすがった。

「まあそれはそれよ。どうせあの馬は私を振り落とすだけよ。そなた、帯刀しておるが騎士になりたいのではないか? 騎士ならば馬がいるぞ。読み書きはどうだ? その故郷の村で習ったか?」

シャルルの問いかけに若者は深く頷いた。

「そうか、よし。そなたを召し抱えるかどうか考えてみることにしよう。二、三日ここに逗留(とうりゅう)せい、よいな」

シャルル・ダンブロワは考えていた。先ほど会ったあの若者は、確かにこのまま追い返すには惜しい気がする。

なるほど城代の言う通りだった。氏(うじ)も素性もわからぬというのに、初対面から人を惹きつける。

あの容姿の端麗さのせいか? 身分卑しからぬどころか、王のご子息がお忍びで諸国を旅されていると言われても頷けるような気品があるではないか。

待てよ、ひょっとすると例のイヨロンドの申し立ての件で王から密かに遣わされた者か? いや、そんなはずはないな。

昨日今日の申し立てに、こんなに早く動くはずはない。ただの通りすがりが、たまたま荒馬騒ぎに遭遇して立身出世の好機を掴んだ……それだけのことか。

まあ、世の中そうやって好機を掴もうと狙っておる人間は掃いて捨てるほどおるからな、そう思って他意はないか。