アイアムハウス

静岡県警察本部から程近く、静岡中央駅前の商業ビルの四階にリノベーション会社「リノックス」はあった。

リノックス本社は今時の雰囲気が漂い、待合室にはビビッドカラーのソファが置かれ、受付には容姿のスペックが高い女性が座っていた。時刻はまもなく十五時半を迎える頃だ。

「静岡県警の深瀬と言います」

受付に深瀬が現れ警察手帳を取り出すと、その独特な雰囲気に社員がどよめいた。不健康そうに頬はげっそりと痩けていて、目の下にはクマが広がっている男だ。そうなるのも無理はなかった。

「警察の方ですか。ご用件はなんでしょうか」

「営業部の前川隆史(たかし)さんはいらっしゃいますでしょうか。例の事件の捜査でご協力いただけると先程伺いました」

「前川ですね。いま別のアポイントで一階のカフェテリアにおりますが、まもなく終わるようですので、待合スペースでお待ちいただけますか」

「では一階に行きます」

「いやあの」

受付の声を聞く間もなく深瀬はカフェへと向かった。階段をゆっくりと下りながら深瀬はスマートフォンを取り出す。エレベーターを使わないのは、極力人と同じ空間にいたくないからだった。

何を話すわけでもなくよく知りもしない人間と、狭い空間で目的地を待つだけのあの空気感に耐えられないのだ。

やがて階下から、焦げたガーリックや焼きたてのパンにコーヒーの匂いが漂ってくる。オープンスペースもある店で、秋の風が心地良かった。カフェの入り口に着くなり、男が小走りに店を出てくる。

「あなたが刑事さんですか。いま受付から電話をもらいまして。営業部の前川です」

「仕事中にすみませんね、少しお話をお聞きしたく」

「え、ええ。では店内で」

前川は長身で口元には少し髭があり、鍛え上げられた胸板と体のラインを強調するようなスーツの着こなしだった。