アイアムハウス

十四時。十燈荘エステートを出た深瀬は、静岡中央市に向かって車を走らせる。行き先は、リノベーション会社リノックス。途中でコンビニに寄り昼食を買う。

そのタイミングで県警に連絡を入れ、リノックスの前川にアポイントを取った。秋吉家のリフォームを担当した人物だ。

十燈荘から静岡中央市に行くには、まず北に向かい、藤湖トンネルを抜けて藤市市街に出る必要があった。そこから藤湖の湖畔をぐるっと回って南に向かうと静岡中央駅に出る。

近道をして藤湖の畔のルートを選んでも一時間ほどかかる。つまり、十燈荘はかなり奥まった地域にあった。

しかし、藤湖周辺で高い位置から藤湖を見渡せるのは十燈荘のみ。その景観の良さが魅力となって、多くの住人を引き寄せている。

といっても、この理屈に深瀬は納得していなかった。景色が良いというだけで、あんなにも多くの富裕層が十燈荘に住みたがるだろうか?

確かに、藤湖には歴史と伝説がある。歴史を遡れば、時の権力者が藤湖周辺に住みたがり、別荘地を作っている。神話にも事欠かない。

はるか昔、この地を訪れた貴族に湖の神が栄達を約束しただとか、高貴な姫が身投げして姫の一族を追い詰めた敵が身を滅ぼしただとか、龍が天に昇っただとか。そんな不可思議な由来のある神社が周辺にいくつもあった。

その中で、十燈荘は比較的新しい地域だ。百年しか歴史がない。その百年のうちに殺人事件が多数起こっている。

十六年前の連続殺人事件以外にも、事件があったことを深瀬は突き止めていた。しかし、古い時代となれば、警察がすぐに行きつくこともできない山中の出来事だ。隠蔽され、なかったことになっている事件が多数あった。