アイアムハウス

「俺は、死神って噂が気になって当時の捜査資料を見たんだよ。深瀬さんの書いた事件調書の表向きの説明では、興奮状態にあった犯人と揉み合ううちに、付近にあった灯油に犯人の所持していたライターの火が引火し、被疑者死亡となったということだ。

噂じゃあ、深瀬さん自身も重度の火傷を負って、背中に跡が残っているらしい。後日、何度か警察の内部監査室からもヒアリングが行われたそうだが、特に進展はなかったって話だ」

「じゃあ、要は相棒の仇を討ったってことですよね? 深瀬さんは悲願を果たしたんですよね」

「まさにその仇ってやつだが、いいか、事件調書と司法解剖の結果を照らし合わせると、一箇所だけ漏れていたことがあった。その焼死体は、燃える前に両足が切り落とされていたらしい。

仮説はこうだ。深瀬さんは自分の相棒の鳥谷さんを殺した犯人に、鳥谷さん自身と同じ痛みを味わわせようとした。つまり八つ裂きにしようとして、犯人はそうされまいと、自分で自分に火をつけた」

「そんなバカな」

笹井は呆れるように言った。

「これは静岡県警の歴史の中でも最大のタブーとされ、誰も真相を口にできないでいるって話だ。それは犯人に対して憎悪を煮えたぎらせた鳥谷さんの友人達が上層部となり、組織全体を黙殺させているってことかもしれない。木嶋さんや管理官もその筆頭格だろう」

「でも、もしそうなら事件隠蔽ですよ。仲間を殺された無念を晴らしたいって気持ちはわからないわけでもないですけど、それが本当だとしたら深瀬さんは人殺しじゃないですか。許されないことですよ」

「そうさ、優等生。しかも、その後の相棒は立て続けに死んでいる。これほど明確な煙が立ち込めているのに、深瀬さんは今も糾弾されることもない。その不確かな存在が死神と呼ばれている理由の一つだ」