野沢は貧乏揺すりをしながらニヤリと笑った。どうしてここで笑えるのか、笹井にはわからない。額に汗が浮かんでくる。
「ま、深瀬さんもわかってるのさ。自分に近寄ると不用意に人が死にすぎることに。あの人自身も偶然や運命なんて言葉じゃあ片付けられなくなってしまった」
「だから僕に近寄るなって言ったんですか。常識で考えたら、相棒を殺すことなんてないでしょうし。深瀬さんには何の落ち度もないじゃないですか」
「まあそうだが、若いお前を気遣う思いやりかもしれん。それに鳥谷さんに限っては、ただの殉職じゃない、妊娠した奥さんを庇って殺されたわけだからな」
「あれ、でも鳥谷さん、十燈荘に住んでいたんですか? さっき聞きましたが、あそこは選ばれた人間しか住めないとか」
「鳥谷さんは、確か藤市に住んでたはずだよ。鳥谷夫婦だけ、十燈荘じゃないところで殺されてる。まあ、そう聞くと深瀬さんが呪われてるって言われて信じそうになるだろ?」
「それは、まあ」
「笹井。今回のこの秋吉一家三人殺人事件、直接の関連性はわからないが深瀬さんの頭の中じゃあ、既に点じゃなく線になっているはずだ」
「! 僕、行きますね」
深瀬の傍にいなければならない。笹井はそう思い立って、鞄に荷物をしまい始めた。
「おい、落ち着けよ」