野沢が声を上げる。
「深瀬さんのところへ行きます。あの人を一人にすべきじゃなかった」
「お前、俺の話を聞いていなかったのか。もう深瀬肇には関わるな」
「嫌です。俺は深瀬さんと一緒に捜査をします。今も猟奇的な犯人は野放しなんですよ。この事件の真相解明を急がないといけません」
「はああ、まったく仕方のない奴だな。俺は心配して言ってやってるんだぞ?」
そう言って、野沢は一枚の紙を笹井に差し出した。
「ここに行って話を聞け。お前の頭も冷えるかもしれない」
受け取ってみると、それは名刺だった。
「ここは何ですか」
「十燈荘の外れにある『クリニック間宮』って病院だ。そこの院長の間宮成美という女性に会ってみると良い。彼女は、深瀬さんのことを知っている。お前は、来たばかりでまだ相棒がいないんだ。深瀬さんと組まされる前に、お前の視点でこの殺人事件を見つめてみると良いさ」
笹井は野沢をあまり信用できない人物だと思っていた。だが、その軽い言葉は何か真実のようなものを含んでいるような気がして、深く頷いて捜査本部を飛び出した。
「おい新人! 勝手にどこへ行く!」
木嶋の大声が後ろから追いかけてきたが、笹井は止まらなかった。
【前回の記事を読む】死神刑事が単独捜査をする理由。それは…最初の相棒だった刑事が惨殺されたのが始まりだった
次回更新は10月22日(火)、21時の予定です。