商談を終えたばかりなのか、テーブルには冷めたコーヒーが二つ並んでいた。前川は書類を鞄にしまいテーブルを片付ける。席は室内の左側に位置するソファ席で、深瀬は窓側に座った。警察手帳を見せて挨拶する。

「改めまして、静岡県警の深瀬です。あなたのお名前とご年齢は?」

「前川隆史、四十三歳です」

「昨夜から今朝まで、どこで何をしていましたか?」

「秋吉さんの事件ですよね。私も今朝ニュースで見ました。本当に信じられません」

深瀬の質問に、前川はすぐには答えなかった。ブランドものの名刺ケースから名刺を取り出して深瀬に渡してくる。そこからも、ほのかに香水の匂いが漂う。

「前川さん」

「あ、すみません。昨夜ですか。えっと、昨日は出先から直帰して、家で十時まで残りの仕事をしていました。それからシャワーを浴びて、一人で映画を観たあと、午前一時過ぎには就寝していたかと。私は独身なので証明できる人はいませんが。ネットでレンタルした映画が期限ギリギリで、少し早送りしながら観てしまいましたね」

それを言う前川の顔色は良くなかった。まさか自分が疑われているのか、という不安のようなものが表に出ている。深瀬は率直に切り出した。

「ご存じかと思いますので、事件の概要については割愛いたします。前川さんは、秋吉さん一家のご自宅に関わるリノベーションを担当されたと聞きました。本件にまつわる書類、家の設計図や秋吉さんとのメールのやり取り、資金計画、ローンの書類などを全て用意していただけますか」

名刺を横目に見ながら深瀬は聞いた。

「はい、わかりました。いま総務にメールして持ってきてもらいます。メールは印刷で良いですよね?」