第二章 イヨロンド

だが、父のフィリップ・ダンブロワは違う。

自分の中にあの忌まわしい女の血が流れている一方で、半分はあの父の血があるのだと思うことが彼の救いだった。

容貌も彼は父に似ていた。ギヨームはどこの誰に似たかわからぬような醜い姿をしていたが、自分は領地内のどの人間に聞いても父の若い頃に生き写しだと言われ、気性も父親譲りであった。

であるから、結婚以来ずっとイヨロンドに業(ごう)を煮やし続けた父と自分はよく気が合った。

家庭内に同じ敵を持つ同士として、シャルルはいつも父の側につき、父の心に従った。父の息子であったからこそ、彼はあの母の子であるという目を覆いたくなるような事実に耐えてこられたのだ。

その父が急に得た病で死んだ。あれほど頑強であった父が急に体調を崩し、日に日に衰弱して半月ももたずに死んでしまった。

常日頃、身勝手な振る舞いを続けていたイヨロンドが付きっきりで看病していたのが妙におかしい。領内の医者を遠ざけ、ノエヴァから名医と称する怪しい者を連れてきて、他を退けたのも腑に落ちない。

これには領内の誰もが首を傾(かし)げ、証拠こそないもののイヨロンドがお館様(やかたさま)を毒殺したのかもしれぬという黒い噂がひそひそと立ち上がり、今では誰も公には口にしないものの、それを疑う者はいなかった。

フィリップ・ダンブロワにはその日の予感でもあったものか、急死する三か月ほど前に、密かにシャルルを呼んで、「アンブロワの領地のすべての家督をそなたに継がせる」と告げるとともに、かねてよりしたためていた遺言書を示した。