その日のうちに、イヨロンドに気づかれぬまま国王のもとに使者が遣(つか)わされ、その手続きはフィリップの死後三日の後に訃報と入れ替わりの形で調っていた。

驚いたのはイヨロンドである。

家督を相続するはずの長男ギヨームを自分の札として握っていたにもかかわらず、それをこれまで一度も顧みなかった次男のシャルルにごっそり持っていかれては堪ったものではない。

自分の裏切りも背信も棚に上げて、彼女はフィリップの仕打ちに怒り狂い、この大いなる誤算に歯軋りした。

しかしだ。イヨロンドはそう一筋縄な女ではなかった。彼女は、今朝になってとんでもないことを言って寄越したのだ。

「次男シャルルはフィリップ・ダンブロワ様のお血筋ではございません。私がフィリップ様との間に授かりましたのは長男ギヨームただ一人。罪の重いことでございますが、次男シャルルは、実は私の不義の息子。

フィリップ様がお心広く可愛がって下さいますので、今の今までフィリップ様にもその真実を打ち明けずに恐る恐る過ごしてまいりましたが、アンブロワの領地をフィリップ様のお血筋でないシャルルにこのまま継がせるわけにはまいりません。

それは更なる罪になると思い、こうして罪を告白し、恥を晒しお申し立ていたします」と、遺言の手続きの無効を国王に申し立てたというのだ。

家督相続のもつれが、治世に禍根(かこん)を残すことには、国王も敏感だ。遺言があるからといっても、申し立てが却下されるという保証はない。

「何を気のふれたことを! 領内外の誰もが私が父上の子だと認めておるわ! ああ、おぞましい!あの女、母などとは思わぬ。何としてくれよう」