Ⅱ 東近江 一九八○ 初夏

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滋賀県の東近江の東部山間地を水源地とする、琵琶湖に注ぐ宇田川にダムがある。そのダム工事建設の現場監督として、父は一九七一年から一九八○年までの間、東近江市の東部山奥にいた。ダムの完成が間近になった一九八○年の初夏である。

僕は父に呼ばれて、山奥のダム工事現場を訪ねた。僕が大学受験に失敗し、京都で浪人生活を始めた年のことである。

住んでいたアパートの近くの小さな駅から、国鉄関西線で京都駅に向かった。京都駅から東海道本線の準急に乗り、近江八幡駅まで行くと、父の部下だという若い社員がクロスカントリーの4WDで迎えに来てくれていた。別名ワイルドキャットだ。

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