野沢は笹井が結論を出そうとするのを止めた。

「単に、深瀬さんが呪われてるだけかもしれない」

「呪いなんて」

「あるかもしれないぞ? 全ての始まりにして一番悲惨だったのは、深瀬さんの最初の相棒だった鳥谷刑事だ。他県にも名が轟くほどの、ずば抜けて優秀な刑事だったらしいが、十六年前に自宅で八つ裂きにされた状態で発見された。奥さんも一緒にな」

「それ……知ってます」

「まあ、うちに来るくらいだから当然知ってるよな。十燈荘妊婦連続殺人事件の被害者で、唯一の男性。新聞もメディアも一斉に報じた話題の事件だ。当然、静岡県警全体の威信をかけ懸命に捜査をしたが犯人の逮捕は難航した。目撃情報と現場に残された証拠が極端に少なかったからだという。ま、これは俺も聞いた話でしかないが」

「でも確か、その犯人は……」

「ああ、そうだ。事件発生から約一年後、犯人は死んだ。でもその前段階の話がある。深瀬さんが、相棒を惨殺した連続殺人犯を特定したんだ」

「すごいじゃないですか、やっぱりすごい刑事なんだ。深瀬さんは」

「まあまあ、続きを聞けよ。深瀬さんから本部に連絡が来た時には、既に犯人は焼死体だった。だから逮捕できなかった。被疑者死亡のまま、書類送検だ」

「焼死体? それは聞いてません」

笹井は思わず大きな声を出し、焦って周りを見渡した。ちょうど皆が木嶋の怒鳴り声に気を取られているところだった。

 

【前回の記事を読む】『十燈荘秋吉一家三人殺人事件・特別捜査本部』五十名ほどの捜査員達をざわつかせた単独捜査をする死神刑事

次回更新は10月21日(月)、21時の予定です。

 

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