僕は、母の話を聞き漏らすまいとしっかりと聞いた。そして、話し終わると同時に

「お母さん、病気、治るよね」と聞いた。

母は、「検査してみないとわからないみたいよ。大学病院といっても、たいしたことないわね」と僕の頭を撫で、兄の肩にそっと手をかけて笑っていた。

この日、僕と兄は入院した。1週間の入院予定であったが、結局3ヶ月入院することになった。

初めての入院生活

僕と兄は4人部屋の同じ病室に隣り合わせで入院することになった。僕のベッドの前には、僕よりも小さな子どもが入院しており、付き添いのお母さんがいた。

面会時間が終わり、両親が帰ろうとした時、それまでは「早く帰ったら」「僕はお兄ちゃんがいるから大丈夫やで」などと言っていたのに、無性に両親と離れるのが寂しくなった。

涙が止まらなくなり、「行かないで、帰らんといて」と大声で叫んだ。それまで、両親と離れて暮らした経験などなかったから、すごく心細くなったのだ。

それを見兼ねた前のベッドのお母さんが、「大丈夫ですよ」と、母に言っていた。兄は、布団を被ったままであった。

「明日、また来るからね。お兄ちゃんがいるから寂しくないでしょ」

と母も何度も僕に諭すように言った。のちに母に聞かされた話であるが、その日の帰りの運転中、父も泣いていたらしい。

入院して一番辛かったのは、水分制限だった。確か1日150mlだったと記憶している。

毎朝、透明のコップに看護師さんがお茶を入れてくれたが、その際兄に、「弟さんがかわいそうだからって、お茶をあげたりしたらいけないからね」と注意していた。

その兄も水分制限があり500mlであった。部屋は乾燥しており、喉がすごく乾いた。僕はお茶を一口飲むと、一気になくなってしまいそうで、怖くてできなかった。

そこでコップに指を入れて、その指で唇をなぞり湿らせていた。僕は喉の渇きを、入院前に買ってもらったぬいぐるみのお腹を何度も何度も殴りながら、気を紛らわせていた。

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