次元が違う。なにが違うのか、次元ってなんだろうか。
普通であれば出逢わない、普通でないから出逢う男性なのか。普通と特別の違いはなんなのだろうか。普通の生活にはあわない男性が突然現われるのか、それを別の次元と考えるか。感性の持ち方で見方がかわるのか。
「別な次元なの、なんとなくわかるような気がするわ」
「いまの彼を裏切るつもりはないけど。でももうコンタクトできないし、逢うこともないでしょう。わたしのことなどもう忘れているのでしょうねえ」
「さしずめ、北島恵利子さんを惑わせる、夏のある日に突然現われたすてきな男性なのね」
「そうなの。裕子さんその表現はぴったりだわ」
「ねえ、もっとその男性を知る努力をしてみないの? なにか知るべきヒントはないの? ドックといえば船に乗っているのでしょ」
「ええ……」
「どのような船に乗っているのかとか」
「それが白いスマートな船らしいの」
「えっ、白いスマートな船だけですか。想像するだけでもすてきじゃないの」
「着ていたTシャツの背中に『MARITIME SAFETY AGENCY』と書かれていたからたぶん海上保安庁と思うわ」
「『MARITIME SAFETY AGENCY』と書かれていたのですか。恵利子さんまさしく海上保安庁ですわ。それに『PM九十八 AKIDU』というのは巡視船の番号と名前だろうと思うわ。その男性は海上保安官よ」
「海上保安官、そのように呼ばれているのですか?」
「そうなのよ。すてきじゃないの。海難事故の報道の新聞でよく海上保安部職員っていうふうに書いているけど海上保安官ですよ」