第一章 ミス大洲の夏
「不安はあとにしますわ。裕子さん、その男がわたしの青春の一ページに最高の時間を与えてくれそうな気がするの」
「そのように考えているの。んーん、それはもう正体をあばくしかないわね。恵利子さんの出逢いの感性なのね。でもちょっぴりうらやましい気がするわ」
「勝手な思いですけど去りゆくうしろ姿を見ていたら、あとを追いかけていきたい衝動にかられたの。イベントを抜けだしてまで行きたいような感じだったわ。でも無理だとすぐにわかったけど」
「そんなにすてきな男性だったの。それはもう絶対、さがしだすべきね。そうそう、その男性の名前は知っているの?」
「青木治郎さんていうの」
「青木治郎さんねえ……自ら名乗ったのですか?」
「いえ、知らないうちにわたしからきいていたみたい」
「ねえ、知らないうちになんて、どうして」
「一瞬にして恋をしたらしいの」
「そう、青木治郎さんていうのね……」
「ひと夏の衝撃的な出逢いとして考えるわ」
「ねえ、恵利子さん一緒にその男性をさがしましょうよ。せめて所在だけでもわかるかも知れないわ」
「ありがとう」
「一緒にがんばるわ。松山、いや、愛媛県のキャンペーンの仲間だもの」
午後の部もステージや広場での行事があったが、おおきなトラブルもなく予定通りに進んだ。愛媛県の自治体を紹介するときにすこし風があり、帽子が飛びそうになってあわてて帽子を押さえたことがあった。
夜の宿舎で、ふたりは電話帳で造船所の名前と電話番号をくまなくメモした。明日は日曜日であり造船所も休みなのかも知れない。
月曜日の昼に調べた全部の造船所に電話を入れて、巡視船『あきづ』の所在を確認することにした。あわせて造船所での生活をも教えてもらうつもりでいた。日曜日のイベントも特に問題はなく推移した。月曜日の朝ふたりはがっちり握手した。