「恵利子さんのためにがんばりましょう」
「ありがとう……裕子さん」
週明けの平日である。雨が降ることもなく比較的いい天気が続いている。暑いのはしかたない。お客さんもすくなくイベント広場は閑散としていた。イベントはさみしい限りだが目的のある日は別に苦にならなかった。
ときどき裕子さんと合間を見ながら目配せをして笑いあっていた。昼休み、昼食もそこそこにふたりは二十社をこえる造船所に電話を入れていた。巡視船『あきづ』の所在はなかなかわからない。ときには何事やとしかられた会社もあった。おたがいに受話器をおいたときに目があった。
「恵利子さん、わかりましたか?」
「いいえ、いまのところぜんぜんだめなのよ」
「そう、こちらもまだなの」
裕子はこれで七社目にかけていた。
「○○造船所ですか? お忙しいところすみません。そちらに海上保安庁の巡視船がドックに入っていますか?」
「はい、入っていますよ」
「そうですか……恐れいります。船の名前はわかりますか?」
「『あきづ』といいますよ。ところであなたはどちらの方ですか?」
裕子は、一瞬怪しいものかと疑われているんじゃないかと思ったが、ついつい言葉がでていた。
「わたし、海上保安庁のファンですの、いいかしら?」
「そうですか。確かにうちに入っています」
「それで場所はどのあたりになりますか?」
「因島側の生口橋の南側になりますね。田熊町になります。橋の上からだと白いおおきな船が見えますよ」
はい、ありがとうございます。すみません、ついでと言っては失礼なのですが、ドックでの仕事や生活はどのようなものでしょうか。できれば教えていただきたいのですが、よろしいですか?」
「ドックのことですか。船の手入れですよ。錆を落としたり、ペイントを塗ったりの船の手入れですよ」
「ありがとうございます。それと生活はどのようなものでしょう?」
「さきほど話したとおり、手入れの仕事は船でしますが、昼の食事や夕食はドックハウスというところで摂ります。仕事が終わればドックハウスに帰り休みます。まあ乗組員用のホテルのようなものです。ドックハウスは当社の場合、造船所から離れていますよ」