第一章 ミス大洲の夏
「わたしも気になりお客さんの相手をしながらちらっと見ていたの。とてもおおきな男性で、すてきなハンサムな顔だちは強烈に焼きついているわよ」
「その男性にもう二度と逢えないような気もするし、いつの日か突然わたしの前に現われるような気もするの。わたしの身勝手な感性かも知れないし、中身は知らないけどすごい男じゃないかと思っているの。ほんのすこし見ただけなのに恋したのかも知れないわ」
「だけど、恵利子さん。そのような男性であれば、きっとすてきな奥さんや子供さんもいるのじゃないのかしら?」
「たぶんいると思うわ」
「妻子ある男性に恋をするの?」
「はい、いてもかまわないわ。押しかけてどうのこうのじゃなくて、整理して言えないけど。ひとときの恋になりそうな気がするの。おかしいかしら? いると思うけど、別のこととして考えていたいの」
「まあ、恵利子さんだめよ。将来を約束したすてきな彼はいるのでしょう」
「ええ、いるわ。でも、そのいまの彼とは別の次元で見てみたいのよ。とんでもない男性とめぐり逢うことができる瞬間(とき)だったと思っているわ」
「別の次元ですか。別の次元ねえ……」
別の次元なのか。毎日おおきなできごともなくあたり前のようにすぎてゆく、仕事をしながらアフターファイブを楽しむが、なにかおおきな刺激がない。
仕事がら、あたり前のように出逢う男性……窓口に来る男性。愛媛県の男性しか知らないわけじゃない。