中央自動車道の談合坂サービスステーションに駐車しているのはトラックばかりだった。ちょうど夜中の四時を回ったところだった。

築地へ青果物を運んだ帰りのこと、正太と骸骨は一休みして缶コーヒーを片手に煙草を吹かしていた。真夜中だというのに辺りには生暖かい風が吹き、それが間近に迫った梅雨入りを予告していた。

正太は座席を倒し、ハンドルに脚を乗せて眠るでもなく横になっていた。今では二人の間柄は兄弟のようなものになっていた。

「なあ、近いうちに温泉にでも行こうか、お前が来てからずっと休みなしだったしよ」

正太はそのままの姿勢でボソリと言った。

「今度高山回りの時によ、早めに出て寄るんだよ。どうだろう?」

骸骨はぎくりと身を震わせた。

「あっ、そうか、済まん。お前ヤケドの痕があったんだもんな」 

彼は骸骨のマスクや手袋を勝手にそう解釈していたのだ。

「あっ、いや、上手い方法がある」

彼は跳ね起きると思わず骸骨の方へ向き直った。目がきらきらして子供みたいだった。

「沢渡の白骨温泉によ、露天風呂があったんだ。夜行けばいい、電灯もないし真っ暗だぞ。それならいいだろ」

正太はさも名案だと言わんばかりに一人で喜んでいた。だから骸骨の淋し気な微笑にも気づかなかった。

「ソウダね、是非ソウしよう‥‥」

「やった、これで決まりだ。温泉はいいぞう」

正太は座席の背後に吊した暦を見て、ふんふんと鼻歌を謡いながら日取りを考え始めた。

骸骨は不安になった。温泉に浸かるというのは乱暴だった。これまでだって正体を隠すのに苦労したのだ。

暑い最中の仕事を終えて、「お前、喉が乾かないのか」と訊かれて周章てたことがある。食物をほとんど口にしないで変だと言われたこともある。

【前回の記事を読む】骸骨が病院を去ってから1か月が経過。懇意にしていた医師は、無事でいてくれることを願うように......

次回更新は10月11日(金)、11時の予定です。

 

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