アイアムハウス
一
十燈荘は、藤湖を一望できる丘陵に造られた高級住宅街として有名だが、別の理由で名が売れたこともある。この十燈荘で店を構えている人間が、それを知らないわけがなかった。
「救急車を呼んだのも、その堀田という女性で間違いないか」
「はい、そうです。救急医療が必要なため、最寄りの藤市に搬送されました。ここから藤市民病院までは四十分ほどかかりますのでそれも容態悪化の一因かと……」
「経緯は?」
「ええと、藤警察署の職員によると、通報があったのが八時三十分。救急車到着まで堀田さんが、心臓マッサージを行っていたそうです。九時に、藤警察署から派遣された警察官が現着。すぐに救急車が来て、秋吉春樹を搬送。その後現場 (げんじょう)保存に入り、堀田さんに事情聴取。九時三十分に事情聴取が終わって堀田さんは帰宅しました。僕がここに到着したのが九時四十分でした」
そして、深瀬は先行した笹井から遅れて十一時に秋吉家に到着した。
「その堀田という女性の発信履歴と秋吉夏美の受信履歴にズレがないか調べたか」
「はい、今のところ堀田まひる側のスマホしか現物がないのですが、それによれば裏は取れています。藤フラワーガーデンの開店時刻は朝八時で、八時過ぎに何度か電話をかけている記録がありました」
「なるほど」
深瀬は冷たい表情で静かに瞬きをした。
「現場を見たい。父親からだ」
「父親の遺体は書斎にあります」
深瀬は靴にビニールカバーを被せて家に上がる。奥には書斎が、右手にはキッチンが、手前にはバスルームがある。三人の遺体は、全て一階で見つかっていた。