アイアムハウス
一
事件現場は藤市十燈荘だ。しかし、通報を受けて現場に出た警官は、藤警察署では手に余ると考え、早々に県警本部に応援を要請していた。もうじき、県警では特別捜査本部が立ち上がるだろう。
事件の概要はこうだ。二〇二〇年十月十日の朝、警察に通報があった。静岡県藤市十燈荘にある一般住宅で、その家に住む秋吉一家が何者かによって殺害されたという。仲の良い、どこにでもいる普通の家族だったが、その現場は通常とはかけ離れた特異な状況だった。
世帯主であり父親である秋吉航季は、書斎でゴルフボールを胃まで詰められた状態での窒息死。母親の秋吉夏美は業務用冷蔵庫の中で凍死。長女の秋吉冬加(ふゆか)は、浴槽にてワイヤーのようなもので縛られ溺死。長男の秋吉春樹は、自室にてゲームのコードで首を絞められた状態で発見された。
春樹だけが一命を取り留め、現在、藤市中央病院に搬送されている。ただし、意識不明の重体で、まだ深瀬のところに続報は入っていなかった。
「では、行くか」
数時間経ってもなお、二階建ての木造建築の家には獰猛(どうもう)な死の気配が漂っている。深瀬は玄関に入り、つけていたマスクを取り臭いを嗅いだ。
「死体は三つ、靴も三足」
深瀬が玄関先の揃った靴に目をやる。その呟きに、笹井が慌てて口を挟む。
「あ、家族は四人です。ここにある靴は、父親、母親、長女のものみたいですね」
「何故、長男の分の靴はない?」
「わかりません」
笹井が首を振る。深瀬は白い手袋をはめた右手で靴箱を開けた。すると、いくつかの靴の中に、少年用と思われる運動靴もきちんと用意されていた。