「ということは、本人のスマートフォンは電源が切れた状態ということだな。見つかったか?」
「いえ。どこにも」
「となると、他の三人の分もないだろうな」
「そ、そうです。深瀬さん、わかるんですね」
「犯人が持ち去ったんだろう。電波記録を追うよう、本部に指示しておけ」
「はい!」
笹井が電話をかけている間に、深瀬は玄関からリビングまでを見渡した。南欧風の外観に負けず劣らず、家の中も掃除が行き届いて過ごしやすい雰囲気だった。隅に埃も見えず、こまめに手入れがされている。
「いつ客が来ても良いな、これなら」
深瀬は独り言のようにそう呟いた。
「深瀬さん、指示を出しました」
「わかった。それで、遺体発見時の状況は?」
「はい、ええと。第一発見者の堀田さんによると、秋吉夏美さんは今まで遅刻をすることがなかったので、不思議に思ったそうです。それで、電話も通じず、家に来たらドアが開いているので怪しく思って、入ってみたと」
「通報前にか?」
「あ、そうです。危ないですよね、犯人がまだ残ってるかもしれないのに」
「殺人事件だとは思わなかったと」
「まあ、普通そうでしょう」
「普通はな。だがここは、十燈荘だ」
その深瀬の思わせぶりな台詞に、笹井もゆっくりと頷いた。
【前回の記事を読む】静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた
次回更新は10月3日(木)、21時の予定です。