書斎は本棚に囲まれた高級感ある隠れ家のような雰囲気だった。書斎机、椅子、どれ一つとってもそれなりに高価に見える。最高級とは言わないまでも、高級住宅街に相応しい程度のしつらえだ。

「この方が秋吉航季さんです。四十二歳、静岡青葉銀行の融資課に勤務している銀行員。ちょうど六年前に、東京から転職して、この藤市十燈荘に移住してきたとのこと。まだ聞き込み中ですが、現時点での話だと、性格は温厚で堅実。今のところ何かトラブルに巻き込まれたという話は見つかりません」

「それは、秋吉航季の会社の人間の話か? それとも十燈荘内で聞き込みをしたか?」

「会社の方ですね、電話で上司の方に軽く話を聞きました。とても驚いていましたね」

笹井は警察手帳に書かれたメモを読み上げながら告げる。

「あとはまだ……十燈荘は家が点在しているので、この家だって隣まで遠くて、ご近所さんに聞き込みに行くのも一苦労なんです」

「相変わらずの土地柄だ」

深瀬はそう言いつつ遺体を眺める。

秋吉航季の遺体は、書斎の革張りの椅子に座らされていた。その後ろにある窓は閉まっている。

「密室か?」

「部屋の扉に鍵はかかっていませんでしたが、ご覧の通り、窓は内側から施錠されています。引き出しがいくつも開いていますし、この荒らされようは物取りの可能性もあるかと考えています」

「いや、そうとは言えない」

深瀬は即座に否定した。

「ふむ。直接的な死因は窒息死で間違いなさそうだ」

深瀬はかがみ込み、遺体の口から溢れ出しているゴルフボールを見つめた。男には、顎の関節が外れるほどボールが詰め込まれている。