奇跡の再会

さて、泰子さんに演奏会の伴奏をお願いしたものの、練習予定の年明けになっても何の連絡もなく、私は不安になりました。

二月が過ぎた頃、そろそろ本番も近いしもうチェロの先生の奥様に代わりにピアノ伴奏を頼もうか?と諦めかけていたとき、泰子さんはひょっこり現れたのでした。

「ひょっこりね、ハハハハハ(笑)ごめんね」と、無邪気に笑う泰子さん。実は実家に帰った後、彼女の二人のおばあ様が立て続けに亡くなられたのでした。そんな慌ただしい中「今みたいに電話もなかなかできないしね」と、連絡できないでいたそうです。

そして、彼女が突然やってきた二月二十一日は、偶然にも私の誕生日だったのです。これには運命を感じました。彼女は、本当に何も知らなかったそうですが……。

私の誕生日にひょっこり現れた泰子さんは、その日から毎日練習に来てくれました。この日から練習が続きましたが、よく考えたら、お互いの奏でる音色を聞いたのは、この日が初めてでした。

「毎日音を合わせたね。演奏会本番までは猛練習で」と私が言うと、

「だってもう間に合わないもん、合わせるのが難しいし」と泰子さん。

「あの頃は、僕の仕事がすごく大変な時期だったから、帰ってくるのが遅くて」

「そうね、もうちょっとやりたいと思っても、何か疲れているような感じで」

「でも『リズムを合わせるのメトロノームでやりましょう』とか言って(笑)」

「悪いな悪いな、と思っていたんだけど、合わせるときに合わないといけないでしょ?」

猛練習を重ねながらも、私たち二人には楽しい時間でもありました。演奏会に向けて、初めて二人で音楽を作っていくことに集中していたときを、私は「すっごく充実していた。あのときが今までの中でも一番充実していたかもしれない」と思いました。

私が、この人だ、と思った泰子さんは明るくて可愛らしい人というだけでなく、ピアノを弾いているときの姿勢も、またその音色も素敵な人でした。

そして彼女は、私のことを「律儀で、優しくて。父の言った通りの人でした。一夫さんのチェロは、本当に綺麗で、大好きなんです。難しいけれど、美しいこの曲を二人で丁寧に弾き直し、音を重ねてきました」と大絶賛してくれました。

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次回更新は10月3日(木)、18時の予定です。

 

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