まえがき
泰子さんはピアニスト、私はアマチュアのチェロ愛好家。そんな二人は、私の演奏会の伴奏を泰子さんにお願いしたことがきっかけで結ばれました。
結婚してからも二人で演奏したくて、自宅にホールを作って知人を招き、ミニコンサートを始めました。
そして、一九八九年四月二十三日から始めたミニコンサートは、二〇一〇年六月十三日に行った三十四回で終了いたしました。
泰子さんが少しずつピアノが弾けなくなってきたからです。
そして二〇一三年、泰子さんが五十八歳のとき若年性認知症と診断されました。泰子さんは言葉にできないほどのショックを受けました。
それから今まで普通にできたことができなくなっていく不安と二人で向き合いながら、泰子さんを励まし支える生活が始まりました。心がけたのは、泰子さんができることを奪わないようにしようということです。
介護者は、認知症患者が何もできないと思い込み、ついつい手を出してしまいがちです。でも、もしかしたら自分でできることなのに、あるいは自分でできると思っていることなのに、介護者がよかれと思って、やってしまっているかもしれません。
そうすると、ますます自信を失ってしまいます。ですから、まずは泰子さんが自分でやれるかどうかをよく見て、どうしてもできなかった場合は少し手伝ってあげたり、自分でできるような工夫をするようにしてきました。