和代と二人であいさつして回ると、体育の先生に満面の笑みで迎えられた。

「うれしいねぇ。卒業しても、ほら、こうして訪ねてきてくれる」

帰り、大きい交差点から駅寄りに下った所にある高い石塀をしみじみ眺めた。あのころ、春の強風に制服のスカートをめくられ、みんなでしばし身を寄せた石塀だ。

服を押さえ、肩を縮め、飛んでくる砂埃から顔をかばって塀のほうへうつむけた。あのとき理緒子は何と言ったか。

「いやらしい風。男の人みたい」

15歳の理緒子は"男の人"と"男の子"を使い分けていた。下級生や同級生、それから一つ二つ上の上級生は"男の子"であり、それ以上は"男の人"になった。

彼女は"男の人"にはあまり興味がなかった。あさみの7つ上の兄は"男の人"だった。

その兄は、ひとめぼれと言ってもいい早さで理緒子に魅せられた。

たまたま日曜日に当たったあさみのバースデーパーティーに、グループのみんなを招待したときのことだ。母手作りのケーキを食べたあとトランプ遊びを始めると、遅く起きた兄が「オレも入れてくれないか」と顔を出した。

コーヒーを飲み飲みホットドッグ風のパンにかぶりつきながらカードを引くという、このときのだらしない兄のせいもあって、いま一つ盛り上がりに欠け、いくつかゲームを終えたところで、誰かが自分の持ち物を引き寄せた。

まだ3時前だったが、そろそろお開きという空気になった。

すると、退屈そうにしていた理緒子がおもむろにカードをかき集め、庭に目をやりながら気だるそうに切り始めた。彼女は「そうね」と言い、もう少しここにいてもいい、という顔つきになった。

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