「この国産みの話をしたのは、若い二人にしっかりと伝えておきたかったからなのだ。我々の先祖は、決して人の住んでいる土地を戦(いくさ)で奪ったり、そこに住んでいる人々を追い出してこの国に住みついたのではないということを。

この地は、その昔伝説の神々が我々のために用意してくれて、我々が平和に暮らしていくために準備してくれたとてもとても大切な土地で、そこに何百年も幸せに暮らしてきたのである。

各地には美しい四季があり、山野には豊かな自然がある。秋になると田畑で米や野

菜、芋を収穫したり、山で木の実や果実をたくさん手に入れることができる。

海や川では魚、貝、エビ、蟹、藻など美味しい食べ物をふんだんに獲ることができる。豊かで美しく住みやすい、このように素晴らしい国はどこにもない。

我々は祖先からもう何千年もここに暮らしているので、そのありがたさがわからずに当然のように思っているが、みんなが幸せに暮らすために神々が創ってくれた大事な土地なのだ。我々はこのことを肝に銘じて、この国を守っていかなければならない。

それを伝えたいがために国産みの伝説を話したのだ」

みくさの爺は心を込めて話した。

「ヤマトは、決して大きな国ではなく、住んでいる人々もそんなに多くはない。それにもかかわらずいまだに小さな国に分かれて争っている。

一つの国を創ってみんなの力で政(まつりごと)をしていくことが大事なのだ。そうすれば、この国はさらに素晴らしい国になっていくことであろう。

小碓様、あなた様の父である大王(おおきみ)は、国を一つにしようと各地に出向いて戦っている。しかしまだまだヤマトに従わない地方の豪族はたくさんいます。

まだ道は半ばでしかありません。これを一つにまとめて、国を創り上げるという偉業を成し遂げるのは小碓様、あなたなのです」

小碓は長老の言葉に驚いた。この国を一つにまとめるのは、父大王の仕事とばかり思っていたからだった。

「私にこのヤマトを一つに統(す)べよといわれても、私には何の力もない。そりゃ腕っ節の力だけは強くて他の子供たちには誰にも負けない自信があります。大王の愚かな息子と陰で笑われている私に何ができるというのでしょうか」

「私には、あなたが全力でこの国を一つにする姿が見えます。その意志を継いで我々の子孫たちがずっとこの国を守り継いでいる姿も見えてくるのです」

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