第一話 長老の予言
2 洞窟の老人
「私は大昔から現在にいたるまでのこの国の伝承を、口伝えですべて受け継ぎ、また後世に託していくという任を与えられています。
この洞窟の中で、これまでの言い伝えを何百回、何千回と復唱して、次に引き継ぐべく準備をしております。あなた様にいくつか話しておきたいことがあります。
それはこの国の大昔から今に至るまでの人々が、どのような思いで生きてきたかということ、何をしてきたかということ、そして何を守ってきたかということです。
私の人生は、もしかしたら今日ここであなた様にお会いして、いろいろなことを語り伝えていくことが最大の役割なのかもしれません。本当に今日ここでお会いすることができて良かった」
その目からは、大粒の涙が次から次にあふれ出していた。
3 みくさの爺の話
長老は「みくさの爺」と呼ばれていた。ヤマト朝廷に古くから伝えられている伝説を、爺の一族は何百年にもわたり伝えてきたのである。神々の時代にこの国が誕生した時のことから話し始めた。
昔々天と地がはっきりしない、混とんとして漂ったままの状態だった。高天原の天つ神は、男神である伊邪那岐命(いざなきのみこと)と女神である伊邪那美命(いざなみのみこと)を結婚させて地上に遣わせた。
漂ったままのこの国を固めて、人の住むことのできる島を産むのが二人の使命だった。この夫婦の神によって生まれたのが、順に、淡路島、伊予之二名島(いよのふたなのしま)(四国)、隠岐(隠岐諸島)、筑紫島(九州)、伊伎島(壱岐)、津島(対馬)、佐渡(佐渡ヶ島)、畿内・大和をふくむ本州(大倭豊秋津島(おおやまととよあきつしま))の八つの島である。
このことから、この国のことを大八島国(おほやしまのくに)と言うのである。そののち更に、吉備の児島、小豆島、大島、女島(ひめしま)、知訶島(ちかのしま)(五島列島)、両兒島(ふたごのしま)(男女群島)の六島を国産みされたのである。
伊邪那岐命と伊邪那美命の夫婦の神様がお産みになったと伝えられるこれらの島々に、我々は先祖代々ずっと住んでいる。そして今に至るまでみんな幸せに暮らしてきた。
このようなことを諄々(じゅんじゅん)と話した。
(作者註:今後「ヤマト」と表記した場合、いわゆる現在の「日本」と同じ国を示します。「大和」と表記した場合は、現在の奈良県大和地方のヤマト朝廷が本拠とした地域を示すことにします。)
みくさの爺は話を続けた。