しばらく歩くと堤防にぶつかり海岸線が途切れるところで2人は砂浜に座った。砂は太陽に温められ熱くなっていたので、持ってきていたタオルを広げてその上に2人で座り直した。トモの日傘で2人の頭を隠して陰を作りやっと落ち着く。

「トモ、ほんま俺と結婚してよかったのか?」とハルは笑顔でトモを見る。

「もう私たち結婚したんやからね。頼りにしてるよ、ハルさん。フフッ」

「あぁ~、俺って幸せな男やなぁ。最高やぁ」とタオルの上に寝転がってハルは上機嫌だ。

「フフッ、私も幸せよ」

「ヒャァ、最高!」とハルが大きな声で叫んだ。

「ちょっと、そんな大きな声で恥ずかしいわ。ハルさんのその奇声だけは私恥ずかしいんやから」とトモは顔を赤らめて周りを窺い見た。

「誰もおらんから大丈夫やぁ。俺はトモの手の甲がふっくらして、握ってグーにすると骨のところがペコペコってへこむやろぉ、あれが可愛いらしくて大好きなんや」とハルはトモの手をとって福福しい手を撫でた。何を言われてもメロメロだった。

「これ、トモにやる」とハルが先ほど砂浜で拾った貝殻をトモに渡した。

トモは貝殻を耳にあて

「あぁ深海の音がするわぁ。心が落ち着く音がする。ハルさん、ありがとう」と喜んだ。

「そろそろ旅館まで行くぞぉ」とハルが立ち上がった。トモも貝殻をポケットにしまって立ち上がった。

旅館は海沿いに建っていて2人の部屋からは海が目の前に見えた。トモは先ほどの貝殻をポケットから出すと大きな窓の前にある机の上に置いた。2人が浴衣に着替え終わった頃に中居さんが部屋に入ってきた。

「本日は当旅館をご利用くださいましてありがとうございます。本日は部屋食となっておりますので、この後7時前にお食事の用意をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。何分(なにぶん)お盆で立て込んでおりまして遅い時間で申し訳ありません」と丁寧に頭を下げた。

「あぁ、あれはホシダカラという貝殻でございましょう」と頭を上げた仲居が机の上の貝殻を見つけて言った。

「先日私の息子もあれと同じ貝を拾ってきて大喜びしておりました。ハハハッ。なかなか取れないらしくて何度も見せて詳しく説明してくれたものですから。

漢字で星宝貝と書いて、貝殻の模様が夜の星空のようなので星宝となったそうですよ。ホホホッ」と、嬉しそうに仲居は笑って

「長居をいたしまして失礼いたしました、では後ほど」と部屋を出ていった。

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