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翌日、イチヘイとサキコさんは一緒にやってきた。
そっと開いたガラス扉の向こうにイチヘイが立っていた。準備を始めていた僕とユミを見て、「おはよう」と、頭を動かして、様子をうかがうような挨拶をした。イチヘイが敷居をまたぐとサキコさんの姿が後ろに見えた。黙って入ってきて黙ったまま扉を閉めた。
こちらを向いたサキコさんの左目に眼帯が掛かっている。
ユミが「おはよ」と言い、「あと一週間ちょっと、頑張ろうね」と続けた。二人は作業台の所に来て、いつものように数枚のマットを持って外に出て、ユミが開けておいた車のトランクに積み込んだ。全員が無言のまま車に乗り込む。
「まるで最初の時みたいね」とユミは言い、あの時のように突然アクセルを踏み込んだ。そして、「打ち合わせしましょ」と、同じ喫茶店に僕らを連れていった。
初日より三十分早い、まだ九時前のモーニングサービスの時間帯だ。店内は同じように薄暗かったけれど、白い壁に掛けられた花の絵は思ったよりも多く、それらを照らす間接照明はけっこう明るかった。
花の絵の下と窓際の席に何組かの客がいた。僕たちは、あの時と同じ席に向かい、同じように座った。僕とユミがアイスコーヒーを、サキコさんとイチヘイがアイスティーを注文した。
「で、どうしたの?」と、ユミがどちらにともなく訊く。
「割とよくある話よ」と、サキコさんが話し始める。
「普通に話せなくなったのよ、だんなと。ただそれだけ」
「でも、殴ったよ、あいつは」とイチヘイが口を挟む。
「あなたは黙ってて」と、ユミがイチヘイを睨んだ。