また、窓の開口部をできるだけ大きくすることで光を入れるだけでなく、開けた時に季節の風が流れ込むように計算した。

開口部を広げたために落ちる強度をカバーしてあまりあるように、廊下の両側に頑丈な鉄筋コンクリート直壁を二列打ち立てて、双方からの梁を受け止めさせ、今までにない耐震強度を達成することができた。

また、その廊下の壁を故意に湾曲させ、プライバシーを確保し、それがまた独立した安定度を増す相乗効果をもたらしていた。

北陸の寒い冬でも快適さを保てる床暖房を全室に配し、窓は断熱性や結露対策の二重ガラス、戸枠窓枠は温か味のある木材にこだわった。

極め付けは「小宇宙の集まりが茜屋」という考え方の下、客室全て造りが違うという手の込みようだ。それを元に、小堀は沖村夫妻と幾度も意見のキャッチボールを繰り返した。

「やはり、日本旅館の良さの一つは、部屋の落ち着きにあると思うんです。スペースが勿体ないという意見もありますが、僕は全ての客室に床の間を設けたい。そこに掛け軸を下げて生花を飾れば、部屋全体を安らぎと落ち着きの空間にすることができると確信しています」

高志の説得力のある意見に、小堀は感銘を受けながらそれを具現化させていった。しかし、設計を巡って意見が対立する事柄もあった。

「宴会場が無いようですが……」と知世が指摘すると、

「団体客の時代は終わったんだ。それに、静かにゆっくりと寛いでいただくためには」と、高志も反論した。