「お給料もボーナスも今まで通り、こちらでちゃんとお支払いしますから安心して」とメンバーたちが言うと、山内会長が、

「とても前向きな提案と申し出を聞いて、私は会長として皆さんを心から誇りに思いました。知世さんは如何ですか?」

知世はメンバーのあまりの温かさに感激して、

「もう願ってもないことです。私どもにとっても、従業員にとってもそれが一番安心です。皆さん、本当に本当に有難うございます……」

と、心の底から感謝を述べた。

会場からは自然と拍手が湧き上がり、知世はメンバーたち一人一人に丁寧に頭を下げ、手を握った。知世は大きな懐の中に入ったような安心感に包まれていた。

茜屋の仮事務所に戻った知世は、希望が胸の中に膨らんでいくのを感じながら玄関ドアを開けた。中に入ると奥の「茜屋の看板」が夕陽を浴びて一段と光り輝いているように見える。

事務所には高志がおり、早速「女将の会」の報告をすると、高志は思ってもみなかった各旅館の対応に驚きながらも知世を労い、二人は手を取り合って喜んだ。

「実は僕からもいい報告があるんだ。長谷川支店長から電話があって、福井銀行一本で全面的に新館建設の融資をしてくださるそうだ!」

「うわぁ、これは社長のお手柄ね! 二歩前進だわ」

二人は仲間たちや銀行の厚意を受けて、今後も立ち塞がるであろう数々の難題に対しても、新たなファイトを燃やすのだった。

茜屋の仮事務所に朝が来た。雀たちのさえずりさえ声援に聞こえる爽やかな朝だ。

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次回更新は9月22日(日)、18時の予定です。

 

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