あわら温泉物語
再建が実現すれば、今までの従業員をまた雇いたいという気持ちは二人とも同じであり、それは絶対に譲りたくないと考えていた。
「数年間だけ預かってください。そして再開時にはきっちり全員帰してください、なんてそんな虫のいい話じゃ通らないし……」
「一旦バラバラに散らばってしまったら、きっと二度と同じメンバーを集めることなど不可能だわ」
「ああ、どこかまとめてウチの従業員を二、三年預かってくれるところがないかなぁ」
知世も同調して、「それも、できるだけ近くで……いつでも皆に会えるといいなぁ」
「今度、女将の会があるから、ダメ元で相談してみようかな?」
「うーん、でもそれは難しいだろうなぁ。ただ、やってみなければ解らないから、僕も一度、組合の役員さんに相談してみるよ」
自分たちが発したほぼ実現不能な希望に、再び二人は深い溜息をついた。
数日後、「女将の会」の新会長山内由里はこう切り出した。
「茜屋さんが火災で全焼されて私たちも心配しておりましたが、この度再建を決意されました。知世さんには、『女将の酒』の開発など日頃から当会に何かと貢献していただいておりますし、女将の会でもできるだけ応援させていただきたいと思いますが、私たちに何ができるのかを、今から話し合いたいと思います」
知世が立ち上がり、恐縮しながら話しだす。