「沖村社長。同年代同士、お互い腹を割ってとことん話し合い、ひたすら茜屋再建のために力を合わせていきましょう。林頭取からは、おまえは茜屋に浸かりながら、他の旅館のこともしっかりやれと指示されておりますので、どうぞ宜しくお願いいたします」

長谷川も歯切れの良い口調で自身の投入宣言をした。

創業以来の企業理念に従ったとはいえ、銀行判断でリスクのある案件を前向きに検討すると預かった林の胸中も、不安の中にも強い使命感で満たされていた。そしてそれは、林の地元産業に対する深い愛情と責任感に他ならなかった。

林は、高志と久紀を見送った後、長谷川に語った。

「沖村社長は一見大人しく見えるが、芯の強い経営者だな。久紀さんも大変落ち着いている。長谷川君にとっても、茜屋さんに付くことがいい勉強になるだろう」

そして、高志たちならきっと立派に再建してくれると、期待を膨らませた。

臨時事務所で、高志と知世は従業員の今後のことを話し合っていた。

「再建するまで二、三年は掛かると思うけど、それまで旅館としての仕事も殆どないし、収益はゼロに近いから、従業員たちを養っていけない。彼らの生活も守ってあげなきゃならないし……どこか就職先の世話もしてあげなくてはいけないなぁ」

「でも、再開の時には全員戻ってきてほしいわ。みんな今まで育てた貴重な戦力で、茜屋にはなくてはならない人たちだから」と知世が不安を口にする。

【前回の記事を読む】「僕は長男として必ず七代目を継ぎます! だから、皆で再建しよう!」家族の絆が強まった一生忘れられない夜

次回更新は9月21日(土)、18時の予定です。

 

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