町内回りの後、二人は消防署と消防団にも赴いた。嶺北消防組合あわら消防署とあわら消防団第一分団に、命懸けで延焼類焼を食い止めてくれた感謝と消火活動中に軽傷を負った隊員へのお見舞いを伝えた。

「私たちは任務を遂行したまでで、隊員の怪我も大したことありませんので、どうぞご心配なく。犠牲者が出なくて本当に良かったですね」

消防の男たちは少しはにかみながら、その日焼けした精悍な顔で、言葉少なくそう答えた。あわら温泉旅館組合の事務所にも立ち寄ると、丁度役員会が開かれており、二人を見て理事長である杉屋の江藤一昭社長が立ち上がり、高志の肩に手を置き、「大変やったねぇ。本当、大変やったねぇ……」と、涙を流して慰めてくれた。

頭を下げる高志に同席していた前田健二も、「高志ちゃん、何度も謝らんかっていい。それより顔を上げて、これからも一緒にあわら温泉を盛り上げていこう。みんな応援してるでのう」と励ました。

「沖村社長、女将さん、今は少しずつ旅館が一体的な雰囲気になってきてる。それは女将の会が貢献してくれているからや。知世さんもその中で頑張ってくれてることは、雅子から聞いてるよ。だから何かあったら相談してな……」

理事長の温かい言葉に続いて他の理事たちも一様に高志たちを励まし、口々に気遣ってくれた。

【前回の記事を読む】「あぁ……何ということ……」真っ赤に燃え盛る旅館を前に全身を震わせながら半狂乱になって泣きわめく女将

次回更新は9月18日(水)、18時の予定です。

 

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