あわら温泉物語
平成二十七年二月二十六日、この日は雪国の真冬には珍しい小春日和だった。寒椿の香が包む中、あわら温泉旅館組合の大ホールでは「女将の酒」の完成お披露目会が開催され、多くのメディアが取材に詰めかけていた。
正面には「女将の酒」がずらっと並び、その前には女将全員が座っている。江藤会長が立ち上がり、代表して挨拶をした。
「本日、あわら温泉の新名物、オリジナル地酒・純米吟醸酒『女将の酒』を発売します。そして、私たち女将全員が利き酒師として、自信を持ってこのお酒をお勧めいたします。
和食がユネスコの無形文化遺産に登録され、世界的に日本酒も注目されている今、地元福井県、そしてあわら温泉から新たな日本酒をリリースできることは、私たち『女将の会』にとって大きな喜びです」
眩しいカメラのフラッシュを浴びる女将たち。その中で、会長が知世に話し掛けた。
「知世さん、あなたのアイディアと積極的な行動力が、メンバーにやる気をもたらしてくれたわ。有難う」
「いえいえ、私は何も……。会長がリーダーシップを取ってくださったお陰です!」
新しい魅力づくりを完成させただけでなく、メンバーが一つになって取り組んだ共通体験は、今後のあわら温泉の力になると、知世もメンバーたちも予感していた。