〈序章 202×年3月某日(土曜)昼過ぎ〉

最寄り駅から続く大通り両側の満開の桜並木が、春の本格的到来を鮮やかに告げる中、老若男女が、武蔵野の面影を残す地に新たに造られた、インターネット参加もできるハイブリッド形式の設備を有するホールに次々吸い込まれていく。

1万人弱が入るこの会場が大入りとなって、日本で初めての試みとなる国家リデザインアイデアコンクール「今のこのままの日本でいいのか!」がまさに始まろうとしている。

この開催を待ちに待っていた者から、知人に誘われ何となく来てしまった者まで、また、政財界で何十年も活躍している者から、高校を卒業したばかりの者まで、参加した動機は様々であるが、日本で初めて行われるイベントに自分が参画しているという高揚した気分が会場には満ちていた。

実際に会場入りしている者ばかりでなく、インターネットで次々とログインする10万人を超える全国津々浦々のリモート参加者にも、パソコン画面と音声を通じその気分が伝播すると共に、逆に、彼らが中央演壇の大スクリーンに、小さくだが次々と映し出されることで、会場内の高揚した空気は双方向的に高まり続けていた。

そして、ついに午後1時の定刻となった。コンクールの開始を告げるチャイムが会場に鳴り響くと同時に、中央演壇から第一声が高らかに発せられた。

「会場の皆さん、そしてインターネットで参加いただいている皆さん、本日の司会を務めさせていただきます、白川朗子です。日頃は大学で講師をしています。どうぞ、よろしくお願いいたします」  

(拍手の音が鳴り続き、大スクリーンに白川が映し出される)

「ただいまより、国家リデザインに関する、記念すべき第1回目のアイデアコンクール、愛称『世直しコンクール』こと『よなコン』を始めさせていただきます。

既に今回の参加要項でも事前にお目通しいただきましたように、最近の通説によれば、国家リデザインとは、『国家といえども、何十年も同じ仕組みのまま続くと体制疲労を起こすとの歴史的考察を背景に、体制全般を定期的に点検して、

起きているであろう体制疲労の部分を取り出し、どのように治すかを色々描いて、国家の在るべき姿に再び設計し直していく』ことです。

私、白川はたまたま縁があって、若い頃に…今でも心身ともに若いつもりですが(笑)…この学問をヨーロッパで知ることができ、その後もコツコツと学び続けて世の中に広めてまいりましたが、

グローバルに見ても、学問としては存在しますが、こんな形で実際に大々的なイベントや発表会が行われることは少ないようです。