松葉は部長に電話をいれて、その旨を伝えた。部長は、記者にはひと通りの説明をしておいたので、設備等を見せて工程など説明しておいてくれ、とのことだった。
松葉は、部長の許可をもらったのでその記者と会うことにした。
やって来た記者に松葉は、先ず機械を見てもらった。機械を見ながら厄介物のシラスが資源に代わろうとしていると話した。
記者は、これはすごい、とたいへん興味深そうに頷きながら、機械と製品であるタイルの写真を撮った。彼は、記事の原稿をファックスするので確認して欲しい、と言って帰って行った。
松葉は記者を玄関まで見送って、自席に座るなり、大きなため息をついた。
俺はまた悩みを抱えてしまった。このタイルを世に出すには、まだまだ解決しなければならない課題が山積している。そのなかでも「売れる価格の設定」の難しさを考えると、松葉には全く自信がなかった。しかし、それは記者には言い出せなかった。
松葉の説明を聞いたときの記者の期待に満ちた顔、部長の「良いものができた」と言ったときの満足そうな顔を思い浮かべるとなかなか言えなかった。
松葉は、部長に記者との面談についての報告をするため、工業試験場に行った。
部長に報告がひと通り終わったあと、松葉はタイル1枚造るのに30分も掛かるのでは、タイル1枚が、3千円にもなってしまう。そして、このタイルを1枚、1枚手で建物の壁に貼っていくとしたら、工事込みの販売価格は、更に跳ね上がってしまう。
貼付けを簡略化するにはユニット化する方法があるが、これとて価格上昇は免れない。この価格では販売はとても難しいということを伝えた。
そして、先生にもう少し1サイクルの時間を短縮できないかと尋ねたところ、シリンダーのスピードを上げるとシラスバルーンの粒子が壊れてしまうので無理だと言われた。
それではとても無理だと思ったが、いろいろと検討してみます、と曖昧に言ってその場を辞した。
【前回の記事を読む】シラスから作られるシラスバルーンとアルミの複合品作り。何気なく言った製品に先方は大乗り気で…
次回更新は9月2日(月)、8時の予定です。