第4章 アルミ鋳物の創業
松葉工業の創業期
松葉は、集まった社員の前で工場の現状を話し、工場が赤字であることなど赤裸々に説明し、鉄鋳物からアルミ鋳物に転換することを告げた。みんな驚いて顔を見合わせていた。
社員の中に動揺が走るのを見て取れた。赤字だったとは知らなかったみたいだった。工場長は会議での内容を部下に伝えていないようだった。
松葉は、先ず社員の皆さんは今まで通り協力して欲しいとお願いした。誰1人辞めてもらおうとは思っていない。「鉄」が「アルミ」に代わるだけだ。何も心配いらない。皆さんの今までの技術で十分通用する、と力説して動揺をできるだけ抑えるように努めた。
実は、松葉は「アルミ」の時代を想定して、アルミサッシの仕事の合間に、県や市の図書館に行って、アルミ鋳物についての文献渉猟 (しょうりょう) をしていた。
また、県の工業試験場の鋳物に詳しい先生を訪ね、「鉄」から「アルミ」への転換の可能性について、事細かに教えてもらっていた。ありがたいことに、工場まで来て指導してもよいとまで言って頂いた。
その際、県との共同研究という手続きが必要だ、と提出書類も頂いていた。このことにより、松葉は今後の強力な後ろ盾をもらったような気がして、大きく踏み出すことができた。
設備は、溶解炉がキューポラから坩堝(るつぼ)炉に代わるだけで、設備投資もそれほど大きくはない。精々2百万円程度でよさそうだ。造型に必要な大きな金枠を用意しなければならないが、これは内製化できそうだから費用は抑えられそうだ。
それなりに事前準備はしておいたので、社員への説明はよどみなくできた。みんなを納得させるのに時間は掛からなかった。