工場のレイアウトの変更図、坩堝炉の配置図などを含めた工程表を作り、後日説明する旨を告げて集会を終えた。
工場長には、今の抱えている仕事が終わる日を特定してくれとだけ伝えた。
しかし、何を始めようとしても、できる人がいない。配置図や転換実施工程表などの作成をそれぞれ分担しようにも誰もいない。工場は職人の集団だった。工場長からして、職人からの叩き上げだ。
言い出しっぺは松葉だ、工場を稼働させる準備は自分1人でできたとしても、どんな製品から造り始めればよいか、松葉の頭の中には確信めいたものはなかった。
確かに「アルミ鋳物」は造れる、しかし「どんな製品」を造ればよいか、松葉は大いに悩んだ。
先ず、どの分野の製品を造ればよいか決めなければならない。
家庭用品の分野か、医療関連の分野か、建築関連の分野か、下請けに特化して部品メーカーとなるか、将又(はたまた)どの分野でも良いから、他社の売れている製品を造っていくか、思いつくまま、ノートに書きながらいろいろと考えてみた。
誰かに相談してみようと思ったが周りには誰もいない、それもそのはずだ、アルミといえば鍋、釜の時代だった。前に勤務していたアルミサッシの会社の上司に聞いてみようかと思ったが、アルミの鋳物とは分野が違うのでやめた。
ここは先ず、社長に相談するべきかもしれないが、何を造ればよいでしょうか、なんていうことは聞けない。
何をもって「アルミ鋳物」と決めたのか、と机を叩いて叱られるのがオチだ。竜のうろこに触れることになる。これはできない。