自分で決めるしかない。自分が少しでも知っている分野といえば建築材料の仕上材だ。松葉は、県工業試験場の機械金属部に行って、建築の分野の製品を造りたいと話した。
すると部長が、「そうですか。ちょうど良かった。試験場ではシラスから作られるシラスバルーンの利用促進をテーマに取り組むことになりました。アルミとシラスバルーンの複合品を一緒に造りませんか」と提案してきた。
シラスバルーンを増量材として使えば、製品の原価が安くなる、と言う。また、行政側としてもこの活用は喫緊の課題なので、一緒に取り組んでもらえばありがたい、という話だった。
南九州に広がるシラス台地では、大雨の度に崖崩れなどの災害が起こり、毎年大きな被害が出ていた。この厄介者のシラスの活用は宮崎、鹿児島両県の長年の懸案事項だ、とその部長は熱っぽく語った。
「どのようにして造るのですか。どれぐらいの大きさまでできますか」
松葉は聞いた。
「そうですね。大きさは20cmの15cmぐらいまででしょうか。低圧鋳造法で造ります」
「その大きさだったら建築材料ではタイルぐらいしかできませんね」と、松葉はタイルを造っても仕方ないなと思いながら、トーンを下げて言ったつもりだったが、部長は「タイルはいいですね。金型で造りますから表面が非常にきれいにできますよ」と、大いに乗り気だった。
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次回更新は9月1日(日)、8時の予定です。