それが、区画整理されて近代的な家になったところで、今住んでいる家と何も変わらない。故郷がなくなってしまうのは、櫻井氏にとって最も受け入れがたいことだったのだろう。
「でもね。どちらにしても、その区画整理の話が出たのも、もう何年も前の話で、一向に進んでいる気配はなかったんだって」
「そうだったの……」
「団地の住民にとってみれば、何を今更って感じで、住み慣れた家がなくなるほうが困る人が多いんじゃないかなぁ」
真琴はしみじみ言った。
「そうだね。あのおじさんも言っていたけど、少ない住民同士でもお互いが仲良く、十分調和がとれている感じだったよねぇ」
駐車場の話からも、住民同士できちんと迷惑がかからないように配慮しあっていた。結束が固い証拠だ。あの男性の話ではトラブルも特になかったという。
「やっぱり外部の誰かがやってきて放火していったのかなぁ」
あずみも次第にその意見に傾いていた。
「あずみ、着いたよ」
気がついたら大学に到着していた。
真琴と共に初動捜査に臨んだ結果は、多少気になるところはあるが、放火犯は外部の変質者だろう、という意見で一致した。
よって一軒目の火事との関係も、特にないだろうと思われた。ふたつの火事の関連性を確信していたふたりの目論見は外れたのだ。警察ではどうか分からない。だが、あの男性の話を聞く限り、警察も同じような感想を抱いたのではないだろうか。
あずみは帰ったらそれとなく啓介に話をふってみようと思った。
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