ふたりは男性にお礼を言ってその場を去った。

学校に行く時間も迫っていたので、そろそろ引きあげなくてはいけなくなった。

駐車場に向かう道すがらあずみは真琴に聞いてみた。

「停めてきた駐車場は、地元の人くらいしか使わないのよね?」

「うん。そうだと思う。たまに住民の親戚とかが停めることもあったみたいだけど、そもそも停める台数も少ないし。パパはいつも気兼ねして電車で来ていたみたい」

駐車場までゆっくり歩いて約八分。最寄りの駅を利用するのとそれほど大差ない。

話している間にも、ふたりは駐車場に到着した。

見ると、本当に整備はされていなくて、単なる空き地のようなところに数台の車が停まっていた。全部で十台も停められるだろうか。白線はひいていないが、一応ロープで車間が区切られているのが見えた。その一番手前の表通りに面したところに、窮屈そうに真琴の車が停めてある。

来客用などに急遽確保したようなそんな印象を受けた。ほかの車幅も似たようなものだったが、それ以外の住民の車はみな軽四であった。櫻井氏の高級車を停めるのには、あまりに場違いな駐車場と言えるだろう。

学校に向かう帰りの車の中で真琴が言った。

「あの辺り一帯は、唯一残っている電車の便も減便されて不便だし、区画を整理してコミュニティーバスが乗り入れられるようにしようっていう案も出ていたみたいなの」

「へぇ、そうなんだ。そのほうがいいよね。だって駐車場も狭かったし……」

「う~ん。でも、パパは複雑だったみたい」

「どうして?」

区画も整理されて、道も広くなるし、家も建て替えてくれるのなら、言うことなしだと思うのだが……。

「だって、あの思い出の家がなくなるでしょう?」

「ああ、そうか」

そうなのだ。櫻井氏にとって、あの家こそが故郷だった。